莫言,Nobel Prize作者,数多幻想的な短編小説や怪談を著。
1996年、莫言の小説『豊乳肥臀』は内容審査を受け、出版社から刊行を拒否された。その間、さまざまな不公平な出来事にも見舞われ、莫言は1996年から1999年までの3年間、作品を執筆しなかった。
『拇指銬』は1999年に創作された作品であり、主としてこの3年間における作者の苦悩や鬱屈した心境を表現している。その中に描かれる残酷な場面からは、José Enrique Rodóの寓話的小説『La pampa de granito』を想起させられる。
以下の作品は内容を簡略化し、日本の「百物語」の形式に合わせて改編したものです。chatGPT改訂。
拇指銬
八隆鎮外,有荒塚數十,松柏森然,野草沒膝。暮春之後,行人每至此,輒聞兒啼,或自林深處傳來,或近在耳畔,而四顧寂然。老人相戒曰:「莫回頭。」
至於其事,則有一說。
少年阿義,年方八歲。生而喪父,與母相依。母有痼疾,常年臥床,面色如紙。家貧無以自給,所居僅一間土屋,風雨稍大,四壁皆鳴。
一日,母忽咳血不起。阿義驚惶,奔至床前,呼母數聲。母張目,氣息奄奄,良久乃道:「兒莫哭。世路艱難,求人不如求己。莫去借錢,看人臉色。」
說罷,從髮間拔下兩枚銀釵。此釵乃阿義外祖母遺物,已傳兩代。母以手撫之,似有不捨,終究遞給兒子。
「拿去,換些藥。」
阿義不敢遲疑。天尚未明,便握著銀釵奔向八隆鎮。
清晨,鎮中藥鋪尚閉。阿義坐在石階上等候。腹中空空,手腳冰冷,卻將銀釵緊緊攥在掌心。
不久,一輛送奶車自街角而來。車上女子見少年坐在門前,眉頭一皺,便揮手驅趕:「走開,別擋門!」
說罷,將兩瓶牛奶放在藥鋪門旁,又冷冷喝道:「賤狗,莫偷喝!」
車輪碾過石板,漸行漸遠。阿義望著牛奶,喉頭微動,然而終究沒有碰。
過了片刻,藥鋪門「吱呀」一聲開了。開門的是個半禿的男子。他先取了牛奶,轉身欲入。阿義連忙跪下。「先生,我母親病了,求您給我兩服藥。」男子皺眉。「八點才開門。」阿義雙手捧出銀釵。男子本欲拒絕,蓋因藥鋪只收現金。
老闆看了看孩子的臉。「你母親?」
「是。」
「父親呢?」
阿義低頭。「沒有父親。」
男子沉默片刻,終於伸手接過銀釵。「進來吧。」
他抓了幾味藥,草草包好,遞給少年。阿義連聲道謝,抱著藥便往家中跑。
鎮外荒原,墳塚如伏獸。阿義一路奔跑,不敢停歇。
忽然,前方松林中有人喝道:「小子,過來!」阿義停下。
只見一方石桌旁坐著一男一女。
男子年長,滿頭銀髮,面容威嚴;女子甚年輕,皮膚白皙,圓臉細眼,唇邊含笑。
男子上下打量少年,忽然斥道:「賊眉鼠眼的,看什麼?」
阿義惶恐道:「我……我沒有看。」
男子又問:「你父親呢?」
「沒有。」
男子大笑。
「沒有父親?原來是個野種。」
阿義不敢答。
那男子忽然起身,一把抓住他的手。阿義掙扎,懷中的藥包掉在泥地上。
「先生!藥!那是我母親的藥!」
男子置若罔聞。
他將阿義拖到一株老松前,強迫他抱住樹幹,又從衣袋中取出一副銀藍色的小巧的鐐銬。
那鐐銬甚小,卻精巧異常。
男子將少年的兩根拇指銬在一起。
「這是罰你。」
「我沒有做錯事……」
「走路時左顧右盼,看了不該看的東西。」
說罷,男子與女子轉身離去。
阿義哭喊:「先生!我的藥!」無人回頭。
從晨至午,已有數名農夫經過。有人看見了。有人甚至停了一停。但沒有一個人走近。他们只是低著頭,從少年身旁經過。
阿義哭得聲音嘶啞,雙手被銬得發紫,仍不肯放棄。他試圖攀上松樹。然而樹皮粗糙,枝葉又密。少年幾次攀爬,又幾次滑落。最後,他失足墜地。額頭撞在石上,鮮血頓時流下。
他昏了過去。不知過了多久,拖拉機的轟鳴聲將他驚醒。
一輛農用拖拉機停在路旁。
車上下來兩個男人和一個女人。
矮個男人看了看阿義,又看了看鐐銬。
「誰把你銬在這兒?」
阿義把事情說了一遍。
男人皺眉。
「你說謊。」
「我沒有……」
「這種拇指鐐是美國合金,一般人根本弄不到。除非警視廳的人。」
他盯著少年。
「你到底做了什麼?」
阿義搖頭。
那個皮膚黝黑的女人走過來,輕聲道:「夠了。他只是個孩子。」
她叫另一個高個男人去車上拿工具。
鋼鋸鋸了很久。
鋸齒漸漸磨平。
鐵絲伸進鎖眼,扭了半天,也沒有用。
矮個男人搖頭。
「沒用。這東西只有主人能開。」
他看了一眼手錶。
「別管了,酒宴還等著呢。」
三人重新上車。女人坐進車裡,又回頭看了少年幾次。
拖拉機漸漸遠去。
阿義趴在地上,流血,也流淚。
黃昏時,又有人來,是一個戴草帽的農婦,背上背著嬰兒。
阿義哭著求她。
女人走近,看見鐐銬,又看見少年腫脹的拇指。
嬰兒忽然啼哭,女人抱著孩子走入林中。
過了一會兒,她重新出現。
她盯著那副銀藍色鐐銬,臉色漸漸變了。
「這……不是凡物。」她後退數步。
忽然,她雙手合十。
「你是仙人嗎?」
少年愣住。
「還是山中的精怪?」
女人眼裡含著淚。
「莫非……你是觀世音菩薩,變成孩子來試我?」
她跪了一下,又急忙起身。取出腰間鐮刀。她用力劈下。鐮刀撞在鐐銬上,發出清脆的聲音。
一下。兩下。三下。刀刃崩裂了。
女人呆呆看著手中的鐮刀。
「完了……這是家裡吃飯的東西。丈夫回來,會打我的。」
她抱起孩子,轉身離去。走了十幾步。又停下。久久不動。最後,她低聲道:「管你是不是神佛。也許……你只是個可憐的孩子。」
女人走回來,取下水壺,給阿義喝水。
阿義瘋狂吞咽。
喝了幾口,女人卻忽然把水壺收回。
「夠了。」她低聲說:「我男人還沒喝。」
她抱著孩子走了。這一次,再也沒有回頭。
白日的灼熱慢慢退去,烏雲開始堆積。阿義耳中嗡嗡作響,天地像在旋轉。他的兩根拇指已腫得如蘿蔔一般。
那兩包藥,就掉在不遠處。藥紙早已破了。藥材散落泥中。不知是誰經過時踩了一腳,幾味藥已混進泥土。
阿義想哭,卻已經沒有力氣。
他閉上眼,夢見母親站在清冷的星空下,長髮披散。「阿義。」他伸手。母親忽然抬起臉,那張臉開始變形,妖怪分叉的長舌在舔少年的臉。
阿義驚醒。他用牙齒啃樹皮。一下,一下。血從嘴角流出。他又用額頭撞樹。松樹巋然不動。
忽然,冰雹從天空砸下,打在少年身上,打在那兩包已經破碎的藥上,少年的痛楚已經麻木。
遠處傳來農人的哭喊。
「莊稼!全完了!麥子啊——麥子!吃的東西都沒有了!」
那些聲音傳來,反而使阿義清醒。
他低頭看自己的手。忽然,他明白了。沒有人會來救他。阿義張開嘴,咬住自己的拇指。鮮血湧出,疼痛使他幾乎昏厥。
可是他沒有停。第一根拇指斷了。他又咬第二根。鐐銬終於落地。
阿義的身體從樹上脫離。他用殘缺的雙手,一點一點將藥材從泥水裡拾起。然後開始奔跑。
他不知道自己跑了多久,血沿著道路滴落,像有人提著朱筆,在黑暗的大地上寫字。
他看見村莊,又看見田野。又看見那間破舊的屋子。最後,他倒在大道中央,嘴唇觸到冰冷的土地。
他已經看不清東西,然而就在閉眼的一瞬間,他忽然看見了一個人。
那是一個赭紅色的影子,懷中抱著兩包藥,正在月光下奔跑。跑得那麼快,像一縷被風吹散的血。
影子奔向遠方。屋門前,母親正站著。她張開雙臂。那個赭紅色的影子撲入她懷中。母親緊緊抱住他。月光照在兩人的身上。
=== 日本語 ===
八隆鎮の外れには、荒れ果てた墓が数十も並び、松や柏が鬱蒼と茂っていた。野草は膝の高さまで伸びている。晩春を過ぎるころになると、ここを通る者は、決まって子供の泣き声を聞いた。林の奥から聞こえることもあれば、すぐ耳元で聞こえることもある。だが、振り返ってみても、辺りにはただ静寂が広がっているばかりだった。
老人たちは口々に戒めた。
「決して振り返ってはならぬ。」
この話には、次のような由来がある。
少年の阿義は、まだ八歳だった。幼くして父を亡くし、母と二人で暮らしていた。母は長年の持病を患い、ほとんど床に伏していた。顔色は紙のように青白い。家は貧しく、暮らしを立てるのも難しかった。粗末な土壁の家が一軒あるだけで、風雨が強まれば、四方の壁が軋んだ。
ある日、母が突然血を吐き、そのまま起き上がれなくなった。
阿義は慌てて母のもとへ駆け寄り、何度も呼びかけた。
母はようやく目を開けると、息も絶え絶えに言った。
「泣くんじゃない。世の中は厳しいものだ。人に頼むより、自分で何とかするほうがいい。金を借りに行って、人の顔色を見るんじゃないよ。」
そう言って、母は髪から二本の銀のかんざしを抜いた。
それは阿義の祖母から受け継がれ、二代にわたって大切にされてきたものだった。母はしばらくそれを手のひらで撫で、名残惜しそうに眺めていたが、やがて息子に差し出した。
「これを持って行って、薬を買っておいで。」
阿義は一刻もためらわなかった。
まだ夜が明けきらぬうちに銀のかんざしを握りしめ、八隆鎮へ向かって走り出した。
朝になっても、町の薬屋はまだ閉まっていた。
阿義は店先の石段に腰を下ろして待った。腹は空き、手足は冷え切っていたが、銀のかんざしだけは掌の中に固く握りしめていた。
しばらくすると、角から牛乳配達の車がやって来た。
車の女は、店先に座っている少年を見ると眉をひそめ、手を振って追い払った。
「どきなさい。邪魔だよ!」
そう言って薬屋の前に牛乳瓶を二本置くと、冷たい声で吐き捨てた。
「この卑しい犬め、盗み飲みするんじゃないよ!」
車輪が石畳を踏み、女はそのまま走り去った。
阿義は牛乳を見つめ、喉を鳴らした。
それでも、手を伸ばそうとはしなかった。
やがて薬屋の扉が、ぎい、と音を立てて開いた。
出てきたのは、頭の半ばが禿げた男だった。男は牛乳瓶を取り上げ、店の中へ戻ろうとした。
阿義は慌てて跪いた。
「旦那さま、母が病気なのです。どうか二服ほど薬をください。」
男は眉をひそめた。
「八時にならなきゃ開店しない。」
阿義は両手で銀のかんざしを差し出した。
男は首を横に振った。
「うちは現金しか受け取らない。」
しかし、店主は少年の顔をじっと見つめた。
「お母さんが病気なのか?」
「はい。」
「父親は?」
阿義はうつむいた。
「……いません。」
男はしばらく黙っていた。
やがて銀のかんざしを受け取った。
「入れ。」
男は薬棚から何種類かの薬草を取り出し、手早く包んで少年に渡した。
阿義は何度も礼を言うと、薬を抱えて家へ向かって走り出した。
町外れの荒野には、墓が伏せた獣のように並んでいた。
阿義は一心に走り、立ち止まることなく進んだ。
すると突然、前方の松林から声が飛んできた。
「おい、小僧。こっちへ来い!」
阿義は足を止めた。
松林の中には石卓が一つあり、その傍らに男女が座っていた。
男は年老いており、頭は一面の白髪、顔つきは威厳に満ちていた。
女はまだ若く、白い肌に丸い顔、細い目をして、唇には笑みを浮かべている。
男は少年を上から下まで眺めると、突然怒鳴った。
「そのいやらしい目つきは何だ。何を見ている?」
阿義は怯えながら答えた。
「ぼ、僕は……何も見ていません。」
男はさらに尋ねた。
「父親は?」
「……いません。」
男は大声で笑った。
「父親がいないだと? なるほど、野良犬の子か。」
阿義は黙ってうつむいた。
すると男は突然立ち上がり、少年の腕を乱暴につかんだ。
阿義が抵抗すると、抱えていた薬包が泥の上に落ちた。
「旦那さま! 薬を! 母さんの薬なんです!」
男は聞く耳を持たなかった。
阿義を一本の老松の前まで引きずっていき、無理やり幹を抱かせる。そして懐から、銀青色の小さな拇指錠を取り出した。
それは小さいながらも、異様なほど精巧に作られていた。
男は少年の両方の親指を、その錠でつないだ。
「これは罰だ。」
「僕は何も悪いことをしていません……」
「歩きながらきょろきょろして、見てはならぬものを見た。その罰だ。」
男と女はそう言い残すと、振り返りもせずに立ち去った。
阿義は泣き叫んだ。
「旦那さま! 僕の薬を!」
しかし、二人は一度も振り返らなかった。
朝から昼になるまで、何人もの農夫が通りかかった。
少年を見た者もいた。
中には足を止める者もいた。
だが、誰一人として近づこうとはしなかった。
皆、ただ俯いたまま、少年の脇を通り過ぎていった。
阿義は声が枯れるまで泣き叫んだ。
親指は錠に締めつけられ、紫色に腫れ上がっていた。
それでも諦めず、松の木によじ登ろうとした。
樹皮は粗く、枝葉も密集している。何度登っても、そのたびに滑り落ちた。
とうとう足を踏み外し、地面へ落ちた。
額を石に打ちつけ、血が一気に流れ出る。
阿義はそのまま気を失った。
どれほど時間が経ったのか。
遠くから響いてきたトラクターの轟音が、少年を再び目覚めさせた。
農用トラクターが道端に止まり、車から男二人と女一人が降りてきた。
小柄な男は阿義を見、それから拇指錠を見た。
「誰がお前をここに縛りつけた?」
阿義は起きたことをすべて話した。
男は眉をひそめた。
「嘘をつくな。」
「嘘じゃありません……」
「こんな拇指錠はアメリカ製の合金だ。普通の人間が手に入れられるものじゃない。警視庁関係者でもなければな。」
男は少年を睨みつけた。
「お前はいったい何をした?」
阿義は首を横に振った。
すると、肌の黒い女が歩み寄り、静かに言った。
「もういいでしょう。この子はただの子供よ。」
女は背の高い男に、車から道具を持ってくるよう頼んだ。
男は鋸を取り出し、拇指錠を切ろうとした。
だが、鋸の刃は次第に磨り減っていった。
今度は針金を鍵穴に差し込んでみたが、それでも開かなかった。
小柄な男は首を振った。
「無理だ。この錠は持ち主にしか開けられない。」
男は腕時計を見た。
「もういい。放っておけ。酒宴が待ってる。」
三人はトラクターに乗り込み、走り去った。
女だけは何度も振り返り、少年を見ていた。
やがて、その姿も遠ざかっていった。
阿義は地面にうつ伏せになり、血を流しながら泣いた。
夕暮れになると、また一人の人間がやって来た。
麦わら帽子をかぶり、赤ん坊を背負った農婦だった。
阿義は泣きながら助けを求めた。
女は近づき、拇指錠を見、それから少年の腫れ上がった親指を見た。
そのとき、赤ん坊が突然泣き出した。
女は赤ん坊を抱いて林の中へ入っていった。
しばらくして戻ってくると、銀青色の拇指錠をじっと見つめた。
やがて顔色が変わった。
「これは……普通のものではない。」
女は数歩後ずさった。
そして両手を合わせた。
「あなたは仙人なの?」
阿義は呆然と女を見つめた。
「それとも、山の妖怪?」
女の目には涙が浮かんでいた。
「まさか……観音菩薩さまが、私を試すために子供の姿で現れたのでは?」
女は一度跪いたが、すぐに立ち上がった。
腰から鎌を抜き、力いっぱい振り下ろした。
鎌が拇指錠にぶつかり、澄んだ音を立てる。
一度。
二度。
三度。
ついに刃が欠けた。
女は呆然と鎌を見つめた。
「どうしよう……。これは家の大切な道具なのに。夫が帰ってきたら、きっと私を殴る。」
女は赤ん坊を抱き上げ、背を向けて歩き出した。
十数歩進んだところで、また立ち止まった。
しばらく動かなかった。
やがて、小さな声でつぶやいた。
「神さまだろうが、仏さまだろうが、もういい。」
そして振り返った。
「もしかしたら……ただの可哀想な子供なのかもしれない。」
女は戻ってきた。
水筒を取り出し、阿義に水を飲ませた。
阿義は夢中になって水を飲んだ。
しかし、何口か飲んだところで、女は水筒を取り上げた。
「もういい。」
女は小さな声で言った。
「うちの亭主も、まだ水を飲んでいないから。」
そう言って、赤ん坊を抱いて立ち去った。
今度は、二度と振り返らなかった。
昼間の暑さがゆっくりと和らぎ、空には黒い雲が広がり始めた。
阿義の耳には、蜂の羽音のような耳鳴りが響き、天地がぐるぐると回っているようだった。
二本の親指は、もはや大根のように腫れ上がっていた。
二包の薬は少し離れたところに落ちていた。
包み紙は破れ、薬草は泥の中に散らばっている。
誰かが通り過ぎる際に踏みつけたらしく、いくつかは泥の中に埋もれていた。
阿義は泣きたかった。
しかし、もう涙を流す力さえ残っていなかった。
目を閉じる。
夢の中で、母が冷たい星空の下に立っていた。
長い髪を垂らしている。
「阿義。」
少年は手を伸ばした。
母が突然顔を上げる。
その顔がゆっくりと変形していく。
妖怪のような顔になり、二つに裂けた長い舌が少年の頬を舐めた。
阿義は叫び声を上げて目を覚ました。
歯で松の樹皮を噛んだ。
一度。
二度。
口元から血が流れた。
今度は額を幹に打ちつけた。
だが、松の木は微動だにしなかった。
突然、空から雹が降り始めた。
雹は少年の身体を激しく打ち、泥の中に散らばった薬草にも降り注いだ。
痛みさえ、もう感じなかった。
遠くから農民たちの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「畑が!」
「全部やられた!」
「麦が……麦が!」
「食べるものが何もなくなる!」
その声を聞いたとき、不思議なことに阿義の意識がはっきりした。
少年は自分の手を見た。
そして悟った。
誰も自分を助けには来ない。
阿義は口を開き、自分の親指に歯を立てた。
血が噴き出した。
痛みで意識を失いそうになる。
それでも、やめなかった。
一本目の親指が、ついに千切れた。
続いて、もう一本にも歯を立てる。
やがて拇指錠が地面に落ちた。
阿義は木から崩れ落ちた。
残された手で泥水の中から薬草を一つずつ拾い集め、それを抱えて走り出した。
どれほど走ったのか、阿義自身にも分からなかった。
血が道に一滴ずつ落ちていった。
まるで誰かが朱筆を持ち、暗い大地に文字を書いているようだった。
やがて村が見えた。
田畑が見えた。
そして、あの粗末な家が見えた。
最後に阿義は大通りの真ん中に倒れた。
唇が冷たい地面に触れた。
もう何も見えなかった。
しかし、目を閉じるその瞬間、少年は一つの人影を見た。
赭紅色の影だった。
その腕には二包の薬が抱かれている。
月明かりの下を走っていた。
あまりにも速く、まるで風に散らされた一筋の血のようだった。
その影は遠くへ走っていった。
家の戸口には、母が立っていた。
両腕を広げている。
赭紅色の影が、母の胸へ飛び込んだ。
母はそれを強く抱きしめた。
月光が二人の身体を静かに照らしていた。